CFOメッセージ
執行役常務CFO 楠瀬 玲子
「今後の資金需要に十分留意しながら、経費削減、投資抑制やノンコア事業・資産の売却を継続的に進め有利子負債の削減を目指します。」
(1) 2020年3月期業績の概要
当連結会計年度において、当社グループが事業を行う主要地域の事業環境は、第3四半期以降の事業環境の悪化によりさらに厳しさを増しました。
新型コロナウイルス感染拡大に伴い、高機能ガラス事業は2020年1月から、自動車用ガラス及び建築用ガラス事業は2020年3月から、大きな影響を受けました。
当社グループの主要顧客である自動車メーカーが欧米の工場を中心に一時的に生産を中止したため、地域によっては自動車生産台数がほぼゼロに近いレベルにまで減少しました。
アジアでは自動車生産が継続したものの、生産台数は大幅に減少しました。建築用ガラス事業では、欧州や南米などにおいて新型コロナウイルス感染拡大防止のための外出制限(ロックダウン)の影響を受け、建設活動が年度末にかけて大きく縮小しました。
一方で、太陽電池パネル用ガラスの需要は引き続き堅調に推移しています。高機能ガラス事業も新型コロナウイルス感染拡大による悪化影響を受けましたが、年度末にかけてある程度安定した状態に戻りました。
(2) セグメント別の状況
当社グループの事業は、建築用ガラス事業、自動車用ガラス事業、高機能ガラス事業の3種類のコア製品分野からなっています。
「建築用ガラス事業」は、建築材料市場向けの板ガラス製品及び内装外装用加工ガラス製品を製造・販売しており、当連結会計年度における当社グループの売上高のうち42%を占めています。太陽電池パネル用ガラス事業も、ここに含まれます。
「自動車用ガラス事業」は、新車組立用及び補修用市場向けに種々のガラス製品を製造・販売しており、当社グループの売上高のうち51%を占めています。
「高機能ガラス事業」は、当社グループの売上高のうち7%を占めており、ディスプレイのカバーガラスなどに用いられる薄板ガラス、プリンター向けレンズ及び光ガイドの製造・販売、並びに電池用セパレーターやエンジン用タイミングベルト部材などのガラス繊維製品の製造・販売など、いくつかの事業からなっています。
「その他」には、全社費用、連結調整、前述の各セグメントに含まれない小規模な事業、並びにピルキントン社買収に伴い認識された無形資産の償却費が含まれています。
セグメント別の業績概要は下表の通りです。
(単位: 百万円)
|
売上高 |
個別開示項目前営業利益 |
|
当連結会計年度 |
前連結会計年度 |
当連結会計年度 |
前連結会計年度 |
建築用ガラス事業 |
233,687 |
247,348 |
17,331 |
25,811 |
自動車用ガラス事業 |
280,977 |
314,645 |
6,100 |
15,118 |
高機能ガラス事業 |
40,143 |
49,106 |
7,116 |
8,062 |
その他 |
1,371 |
1,690 |
(9,370) |
(12,136) |
合計 |
556,178 |
612,789 |
21,177 |
36,855 |
建築用ガラス事業
当連結会計年度における建築用ガラス事業の売上高は2,337億円(前連結会計年度は2,473億円)、個別開示項目前営業利益は173億円(前連結会計年度は258億円)となりました。
建築用ガラス事業の売上高は、主に為替変動の影響により前年度を下回りました。営業利益も為替変動に加え、市場環境悪化の影響を受けて減少しました。
欧州における建築用ガラス事業の売上高は、グループ全体における当事業売上高の37%を占めています。前年度実施したリストラクチャリングの影響を含めて販売数量が減少したことに加えて、為替変動の影響も受け、売上高は前年度を下回りました。域内でのガラス供給増により第3四半期に入り販売価格が下落した影響もあり、利益も減少しました。販売数量は新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、年度末にかけてさらに減少しました。
アジアにおける建築用ガラス事業の売上高は、グループ全体における当事業売上高の39%を占めています。太陽電池パネル用ガラスの販売数量が伸長した一方、域内の厳しい市場環境の影響を受け、売上高は前年度並となりました。日本の一般建築用ガラスの売上高は前年並みを維持しました。第2四半期に一過性の在庫評価損失を計上したものの、日本は増益となりました。2020年3月31日に公表した通り、千葉1号窯を2020年7月に生産休止することを決定しました。また、2020年1月30日にはベトナムで太陽電池パネル用ガラスを生産する2基目の窯の改修完了を公表しました。
米州における建築用ガラス事業の売上高は、グループ全体における当事業売上高の24%を占めています。売上高、営業利益はともに前年度を下回りました。北米では、域内市場での一般建築用ガラスの供給増による価格下落の影響で、前年度に比べて厳しい環境となりましたが、太陽電池パネル用ガラスの売上高は増加しました。南米は主に為替変動の影響で減収となりました。また新型コロナウイルス感染拡大の影響により年度末にかけては販売数量が減少しました。
自動車用ガラス事業
当連結会計年度における自動車用ガラス事業の売上高は2,810億円(前連結会計年度は3,146億円)、個別開示項目前営業利益は61億円(前連結会計年度は151億円)となりました。
自動車用ガラス事業は、為替変動や欧州での乗用車生産台数減少の影響等により売上高、営業利益ともに前年度を下回りました。
欧州における自動車用ガラス事業の売上高は、グループ全体における当事業売上高の43%を占めています。欧州では乗用車生産台数減少の影響を受け、減収減益となりました。新型コロナウイルス感染拡大に伴う顧客の工場の稼働休止により、年度末にかけて販売数量が大きく減少しました。
アジアにおける自動車用ガラス事業の売上高は、グループ全体における当事業売上高の24%を占めています。売上高、営業利益ともに前年度より減少しました。日本においては第2四半期までは堅調であった一方、10月以降は、消費税率引き上げにより販売数量が減少したことで、売上高は前年度を下回りました。営業利益も素板コスト増加に加えて、第3四半期以降の数量減の影響を受け、減益となりました。
米州における自動車用ガラス事業の売上高は、グループ全体における当事業売上高の33%を占めています。売上高は、為替変動の影響及び新型コロナウイルス感染拡大の影響で、特に年度末にかけて市場環境が悪化したことにより減収となりました。北米では、新車用ガラスの販売数量は前年度をわずかに下回りましたが、生産効率向上が利益の改善に寄与しています。南米の収益性は前年度並みとなりました。
高機能ガラス事業
当連結会計年度における高機能ガラス事業の売上高は401億円(前連結会計年度は491億円)、個別開示項目前営業利益は71億円(前連結会計年度は81億円)となりました。
高機能ガラス事業は、一部の事業での厳しい市場環境を受け、売上高、営業利益ともに前年度を下回りました。
ファインガラス事業では、継続的なコスト削減による事業基盤の強化や売上構成の改善により、業績改善が一層進みました。情報通信デバイス事業では、プリンターやスキャナーに使用されるガラス部品の需要が減少しました。エンジンのタイミングベルト用グラスコードの需要も、自動車市場の影響を受けて特に年度末にかけて減少しました。電池用セパレーターの業績は引き続き安定的に推移しました。
その他
当連結会計年度におけるその他の売上高は14億円(前連結会計年度は17億円)、個別開示項目前営業損失は94億円(前連結会計年度は121億円)となりました。
このセグメントには、全社費用、連結調整、前述の各セグメントに含まれない小規模な事業、並びにピルキントン社買収に伴い認識された無形資産の償却費が含まれています。
持分法適用会社
当連結会計年度における持分法による投資利益は11億円(前連結会計年度は62億円)となり前年度を下回りました。これは、前年度第2四半期にブラジルの建築用ガラスの持分法適用会社であるCebrace社において売上高課税基準の税金の計算方法に対する異議申立ての結果、一過性の利益が計上されていたものが当連結会計年度には含まれていないことに加えて、当連結会計年度末にかけて市場環境の厳しさが増したことにより事業利益が減少したことによるものです。
(3) 2020年3月期における財政状態の分析
当社グループでは、今後の予測・見通しを踏まえて、既存の融資枠の範囲内で引き続き事業継続が可能なものと判断しています。
当社グループは、既存の融資については、返済期限を迎える前にその更新を金融機関との間で交渉する方針としています。
将来の借入条件に関する金融機関との交渉において、当社グループが受諾可能な条件での融資が不可能と想起させるような事実は発生していません。
こうした状況を検討し、当社取締役会は、当社グループが予測可能な将来において継続事業として存続するのに十分な経営資源を引き続き有するという、合理的な見通しを持っています。
従って、当社グループは、引き続き継続企業の前提に基づいて、当連結会計年度の連結財務諸表を作成しています。
- 総資産
当連結会計年度末の総資産は7,652億円となり、前連結会計年度末より33億円増加しました。資産増加の大部分は、IFRS第16号「リース」の適用開始により有形固定資産に含まれる使用権資産を認識したことによるものです。
- ネット借入残高
当連結会計年度末時点のネット借入残高は、前連結会計年度末より725億円増加し、3,902億円となりました。借入残高の増加はIFRS第16号の適用開始と戦略投資による資本的支出によるものです。また、総借入残高は4,350億円となりました。当社グループは、当連結会計年度末時点において未使用の融資枠655億円を保有しています。
- 資本
当連結会計年度末時点の資本合計は882億円となり、前連結会計年度末時点の1,325億円から443億円減少しました。当社グループで使用される多くの通貨に対して円高であったこと、当期損失となったこと、A種種類株式の消却を当期実施したことなどにより、資本合計の減少となりました。
- 1株当たり指標
当連結会計年度の基本的1株当たり当期損失は235.96円となり、前連結会計年度の基本的1株当たり当期利益115.16円より悪化しました。
基本的1株当たり当期利益は、親会社の所有者に帰属する当期利益からA種種類株式に係る配当金及び金銭償還プレミアムを控除した金額を、発行済普通株式の加重平均数で除して算出しております。
当連結会計年度において、A種種類株式に係る配当17億円(前連結会計年度は21億円)及び金銭償還プレミアム8億円(前連結会計年度は8億円)がこの計算に含まれています。
(4) 2020年3月期におけるキャッシュ・フローの分析
当連結会計年度における営業活動によるキャッシュ・フローは、304億円のプラスとなりました。
投資活動によるキャッシュ・フローは、有形固定資産の取得による609億円の支出があり、569億円のマイナスとなりました。
米国、ベトナム及びアルゼンチンにおける戦略投資案件が予定通り進捗したため資本的支出が増加しました。以上より、フリー・キャッシュ・フローは264億円のマイナスとなりました。
財務キャッシュ・フローと為替換算影響を考慮した後のベースで、当連結会計年度末における現金及び現金同等物の残高は、前連結会計年度末に比べて98億円減少し、405億円となりました。
(5) 財務方針
現在の経済環境により当社グループの事業活動は大きく影響を受けています。
新型コロナウイルス感染拡大およびガラス需要の低下に対応するために、従業員の安全・健康を最優先する方針のもと、複数の工場で生産の休止や縮小などの対策を実施しています。
さらに各分野での経費支出の削減や、地域によっては公的補助金を活用するなどの施策も進めています。
またノンコア資産の売却や運転資本の効率改善といった施策の継続に加えて、資本的支出は戦略的に重要な案件と緊急性の高い案件を優先し、それ以外の投資は可能な限り中止しています。
また2020年3月末時点で十分な流動性は確保できているものの、現状の厳しい市場環境において今後の資金需要には留意しており、当社グループでは継続して流動性を確保できるよう、金融機関と協議しています。
安定的な財務基盤への早期回復は当社の喫緊の課題と認識しています。既存事業の抜本的なコスト構造の変革を推進する一方で、ビジネス・イノベーション・センターや研究開発活動をより強化し、新規事業育成を加速することにより、事業収益を高めキャッシュ・フローの創出を図ります。さらに投資抑制やノンコア事業・資産の売却を継続的に進めることにより、有利子負債の削減を目指します。これらの施策により持続可能な当期利益とキャッシュを生み出す体質の回復に努めます。
(6) 配当政策
当社グループでは、持続可能な事業の業績をベースにして、安定的に配当を実施することを利益配分の基本方針としています。将来、A種種類株式全てを償還した後も、この基本方針は維持しつつ、連結配当性向30%を目安として、継続的な配当の実施に努めてまいります。
当社は、毎年3月31日と9月30日を剰余金の配当の基準日としています。
また、当社は、会社法第459条第1項の規定に基づき、株主総会によらず取締役会の決議をもって剰余金の配当等を行うことができる旨を定款に定めています。
2020年3月期の普通株式にかかる期末配当金につきましては、当社グループの現在の財務状況及び利益水準等を踏まえて、誠に遺憾ではありますが、当社取締役会はその実施を見送ることを決定いたしました。当社グループは、配当は株主の皆様にとって重要なものであると認識しており、グループの業績が十分に改善した段階で配当実施を再開することを考えています。また、A種種類株式につきましては所定の金額の配当を実施します。