2022年のサプライヤーエンゲージメント
エネルギー効率およびCO2削減
2022年、NSGはグループミッション「Changing our Surroundings, Improving our World」と完全に一致した新たな調達ミッションを制定しました。 調達ミッション「Leveraging our Supply Chains, Improving our World(サプライチェーンを活用し、世界を改善する)」は、サプライパートナーが地球と社会に貢献できることを認識し、サステナビリティ分野におけるNSG自身の目標にも貢献するものです。 本セクションでは、この分野におけるNSGの抱負を述べるとともに、サプライヤーとのパートナーシップのもとで取り組んでいる取り組みの一例をご紹介します。
NSGグループは、これまで10年以上にわたって、グローバルな相互協力のもとグループ全体のエネルギー効率化プログラムを実施しています。
調達部門は、研究開発部門、マニュファクチュアリング・エクセレンス部門、EH&S部門、および各地域の経営陣とともに、グループ全体のエネルギー消費量とコストの削減に注力しています。
2021年には、スコープ3の排出量に焦点を当てた新しいプロジェクトを立ち上げました。このプロジェクトを通じてサプライチェーンのCO2の動向をこれまで以上に理解するとともに、ベストプラクティスの特定と共有を図りました。その結果、データ収集の精度が改善され、2021年は2020年と比較して、より粒度の高いスコープ3排出量の開示が行えるようになりました。
スコープ3のCO2排出量には、NSGのバリューチェーンにおけるその他のCO2排出量が含まれます。例えば、原材料、輸送、サービス、出張、従業員の通勤、ジョイントベンチャー投資先からの排出量、NSGのガラス加工における顧客からの排出量などです。2022年におけるスコープ3排出量のカテゴリー別詳細は下図の通りです。
サプライチェーンの排出量削減のために、NSGグループはさまざまな取り組みを行っています。例えば、グループ全体のCO2排出量の約17%を占める原材料については、主要な原材料サプライヤーと連携して低炭素原材料を特定し、南米のフロートラインで大規模な試験を行い、エネルギー消費とCO2排出量の削減に成功しました。また、原材料の主要サプライヤーに代替燃料への移行を働きかけるとともに、輸送手段のモーダルシフトを推進することにより、サプライチェーンにおける炭素排出量の削減を継続して進めています。
エネルギー
2022年のエネルギーコストは、特に欧州において前年を上回りました。長年にわたるエネルギー・カーボンマネジメントプログラムは継続され、いくつかの革新的なエネルギー・水プロジェクトが特定・実施されました。実施されたプロジェクト、特にエネルギー効率に関するプロジェクトにより、記録的な市場価格高騰の影響が部分的に軽減されました。
当グループの電力に占める再生可能エネルギー源の割合は、2021年の26%から2022年には32%に増加しました。2024年までにこれを50%に引き上げることがコミットされています。ポーランドで2022年1月に開始された電力購入契約(Power Purchase Agreement, 以降PPA)は、この改善に大きく貢献しました。ポーランドのPPAは2022年に57,000トンのCO2排出量削減に貢献しました。アルゼンチンでは、コストとCO2排出量を同時に管理する戦略の一環として、既存事業と事業拡大をサポートするために、さらなるオフサイトPPAが実施されています。
将来フロート窯の電気ブーストシステムに再生可能電力を使用することで、スコープ1排出量の削減に寄与することができます。このように電気システムと再生可能電力を組み合わせることで、CO2排出量を大幅に削減することが可能になります。
オンサイト・ソーラー・プロジェクトは2022年にロスフォード(米国)で開始ました。その後、アーケン(ドイツ)、舞鶴(日本)、スンガイ・ブロー(マレーシア)、ロスフォード・フェーズ2(米国)のプロジェクトの建設が進行中であり、これらのプロジェクトは2023年と2024年に稼働開始する予定です。オンサイトで再生可能電力を生産し、当社で直接消費することにより、当社のCO2排出量を削減します。これらのプロジェクトでは、NSGグループの顧客であるファースト・ソーラー社の太陽電池モジュールが使用されます。これは、当社の製品の実証にも繋がります。
2021年8月に英国で行われた水素を炉内燃料とする世界初の試験に続き、2022年2月にはバイオ燃料を用いた同様の試験が完了しました。この試験では、英国グリーンゲート工場の近くにあるアージェント・エナジー社から液体バイオ燃料が供給され、数日間にわたって100%炉内燃料に転換されました。この試験は、英国政府の産業用燃料転換プログラムの支援を受けて行われ、この種の燃料が将来の長期的な脱炭素化のためのもうひとつの選択肢であることが証明されました。
2021年の水素燃焼試験での成功を基に、プロジェクトを特定・開発するための一連の協定がパートナーと締結されました。その一例が、2022年後半に英国のVertex Hydrogen Limitedと締結した覚書です。このプロジェクトでは、今後10年のうちの後半にセントヘレンズのグリーンゲート・サイトに低炭素水素を供給する予定です。
主要な原材料サプライヤーとのシナジー効果
NSGの製造ラインで使用されるガラス原料の製造・加工は、スコープ3排出量の約35%、NSGグループ全体のCO2排出量の約15%を占めています。NSGは、主要な供給パートナーと緊密に連携し、原材料の現在の一次排出係数を詳細に把握することで、算定方法や第三者検証を含め、スコープ3の影響を最も正確に把握できるようにしています。さらに、2030年および2050年の炭素削減目標に向けたサプライヤーのロードマップを評価し、NSGの目標との整合性を確認します。この作業はNSGの調達戦略に反映され、公表された2030年以降の科学的根拠に基づく目標を達成できる、完全に持続可能なサプライチェーンへの移行を推進します。
低炭素原材料
平均的なフロートラインでは、CO2排出量の約17%がカーボネート原料の分解によるものです。そのため、NSGでは低炭素原材料の代替品への置き換えを重点的に進めており、研究開発部門に専門の脱炭素化技術チームを置いています。研究開発部門と調達部門とが直接協力し、CO2排出を最小限に抑え、且つ溶解に必要なエネルギーを削減できる使用可能な低炭素バッチ材料の特定を進めています。2022年初頭、NSGは焼成ドロマイトを使用したガラス製造試験を成功させました。窯への材料の投入を安全かつ確実にコントロールするために、取り扱いと処理の課題を克服し、複数のKPIをモニターして影響評価を行いました。その結果、CO2排出量が減少しただけでなく、バッチの溶融に必要なエネルギーも削減されたことが実証されました。得られた知識をさらに集約し、プロセスを最適化するため、2023年後半には2回目の大規模な試験が計画されています。
2023年には、ガラス製造工程における技術的な適合性を証明し、NSGのCO2排出削減目標を達成するための潜在的な解決策を拡大するため、他の低炭素材料も試験される予定です。
NSGは、製造工程における再生ガラス(カレット)の使用を増やすための措置を講じています。これには、ガラス製造工程や三次加工工程で発生するカレットだけでなく、顧客やエンドユーザーからの返品も含まれます。これにより、必要なカーボネート原料の量が減り、CO2排出量が削減されます。調達部のサプライヤー開発チームは、最低限の品質管理基準と清浄度要件に適合するよう、新たな供給元の評価を支援しています。 また、自動車産業からの返送ガラスなどをNSGに適した製品にするために、他の場所から調達したカレットの汚れを洗浄・除去できる専門のリサイクル業者とも提携しています。
サプライチェーンにおけるCO2排出量削減
当社は、サプライチェーンにおけるCO2排出量削減に向け、主要サプライヤーと緊密に協力しています。当社事業所への原材料の輸送による影響は、サプライ・フットプリントの中で考慮されており、調達パートナーは、事業所ベースでの車両等の輸送手段において、電気、水素、バイオ燃料などの代替燃料をますます検討しています。再生可能電力への移行は、特にサプライヤーが広大な埋立地や湖沼を持つ場合、太陽光や風力ソリューションの利用が可能になるため、より注目されるようになってきています。エネルギー源をより低炭素なものに移行するために、バイオ燃料や木材チップの開発が進められており、場合によっては生産プロセスさえも、排出を最小限に抑えるために再設計されています。NSGグループはまた、ガスの購入によるCO2排出量に対する影響を削減するため、炭素捕捉技術を用いたオンサイト水素生成のオプションも検討しています。このような戦略的パートナーシップを通じて、NSGはサプライチェーンにおけるCO2排出量の最小化に向けて、継続的な取り組みを続けています。
輸送・倉庫業務
輸送・倉庫業務にかかる費用は、NSGグループがグローバルに展開する調達活動全体の12%を占めています(うち、倉庫業務が3.5%、輸送業務が8.5%)。地域別内訳は、 欧州の道路輸送が45%、中東・インドが3%、日本が16%、米州が36%です。CO2排出量の報告に関するサプライヤーの関与は、現在ヨーロッパで約80%(主にフロートガラスのバルクパートナーである「Innenlader's」を通じて、またカーテンサイドトラックであるFTL(Full truckload、フルトラック積載)輸送およびLTL(Less than Truckload, 小口トラック輸送)貨物については当社の輸送管理ソフトウェア「Transporeon」の報告書の活用を通じて)、日本で37%、北米で39%となっています。これらのエンゲージメントを通じて、現在では詳細な走行距離データを照合しています。
2022年には、空車走行距離の削減、道路から鉄道、船舶、はしけへのモーダルシフト、相対的な積載量の増加など、継続的な効率向上に重点を置きます。これらの取り組みにより、環境への影響をさらに低減していきます。
ヨーロッパでは、統合された戦略的な運送業者の選択により、報告と可視性が強化され、当社のネットワークにおけるより良い運送業者、レーン管理、フロー三角測量(最適化された輸送経路を計算する方法)の改善による効率性の向上につながりました。また、トラック・アンド・トレースの監視の改善にもつながりました。コントロール・タワー(意思決定を改善するためのリアルタイム輸送データの管理)を通じて、他の顧客との間で、リターン・ロード(積み荷の返却)を最適化しています。具体的には、往路の目的地から復路の荷物を利用することにより、往路および復路の荷物の全体的な輸送コストを削減しています。また、複数のNSGビジネス・ユニットにまたがるコントロール・タワーによるガバナンスとチェックを開発し、直接および下請けの運送業者とのトレーラー・タイプの標準化を確実なものにしています。
北米の自動車関連事業の返品率は約5:1です。輸送業者と協力し、返送貨物を特定することで、当社製品の片道輸送を削減しています。過去15年間にわたり、4PLプロバイダー(4th party logistics provider, 物流パートナー)はこれらのルートについて独自のバックホール(帰り荷)も特定していました。北米では2024年にSAP S4 HANAを導入する予定で、これには自動車関連事業がEDI(Electronic Data Interchange, 電子データ交換)入札を通じて輸送業者と直接やり取りできるようにする新技術も含まれます。
トラクターとトレーラーユニットの風袋重量を削減することで、フロートガラスのバルク輸送の積載量を改善し続けています。
ヨーロッパでは、トラック輸送から鉄道輸送への移行など、貨物や原材料の複合一貫輸送ソリューションの拡大に取り組んでおり、GHG排出量を最大75%削減することが可能です。サン・サルヴォ(イタリア)-ポーランド間およびサン・サルヴォ(イタリア)-ヴィッテン(ドイツ)間の自動車事業における複合一貫輸送の利用を増加させ、引き続き拡大していきます。進展を制限していた鉄道網のインフラ問題が緩和されたため、2023年にはこの問題にさらに重点を置くことになります。
ドイツのイネンレーダー(フロートガラスのバルクパートナー、ジャンボ・シート・フロートガラス用のトラックトレーラーを製造)は、当社に代わって外部倉庫の運営も行っており、現在、施設全体の電化によりCO2ニュートラルを達成していると報告しています。
英国(セントヘレンズを除く)のイネンレーダーでは、ディーゼルではなくHVO(Hydrotreated Vegetable oil, 水素化植物油)の使用を検討するプロジェクトが進行中です。
北米では、インターモーダル転換の適格性を確認するため、路線を継続的に見直しています。
北米の自動車用ガラス交換部門では、配送センターからサービスセンターへの最適な輸送ルートを検討し、それを4PLプロバイダー(4th party logistics provider)に公表して競争入札を行っています。特注のシステムにより、すべてのサービスセンターからの返品は、効率的なバックホール(帰り荷)とルートの最適化により適切に管理されます。フロリダ/ジョージア州のサービスセンターからメヒカリへの返送も、複合一貫輸送を利用しています。
サステナブル・サプライチェーン
2022年3月、NSGのサステナビリティ委員会は、調達部門が主導する「サステナブル・サプライチェーン(SSC)プロジェクト」を承認しました。調達部門とサプライヤーに課されるESG関連の責任がますます高まる中、今回のSSCプロジェクトは、当社が2009年に制定した「サステナビリティ基本方針」に基づきその責任を果たすための大きな一歩となります。このプロジェクトでは、パートナーである「アクション・サステナビリティ」とともにISO20400に準拠した形で活動を行いました。具体的には、調達部門主導によりグローバルなビジネス・ユニットの代表者を含む部門横断的なチームを立ち上げ、環境と労働・人権の保護を中心とした8つの優先行動分野を設定しました。また、主要な顧客とサプライヤーを巻き込み、サプライチェーンにおける将来の重要なリスクを軽減するための戦略を策定し、確実なサプライヤー・パートナーシップを築くための活動を行いました。
当社の主要サプライヤーの95%がサプライヤー行動規範に署名しており、今後もこの行動規範は取引を行う上での最低限のエントリー・ポイントとなりますが、2024年度には、SSCプロジェクトで特定された8つの優先分野への取り組みに対する当社のコミットメントと長期的な抱負、そしてそれらを達成するためのサプライヤーとの協働について定めた「サプライチェーン憲章」を、新たに発表しました。優先的または戦略的と判断されたサプライヤー、および高リスクまたは中リスクのセクターで事業を営むと判断されたサプライヤーは、このサプライチェーン憲章に署名し、GHG排出量削減目標など主要なサステナビリティ目標達成に向けて、当社と共に活動することが期待されます。
カテゴリー・マネジメント戦略や方針と手順を根本的に変更し、調達部門の組織適合、新しいデジタル・ツールやプロセスに裏打ちされた調達戦略などを通じて、当社は引き続き、サプライチェーン憲章に定めた長期目標の達成に向けて活動を進めていきます。