NSGグループの脱炭素・環境負荷低減への取り組み
エネルギー集約型・炭素集約型の製造業である当社グループにとって、気候変動への取り組みは必要不可欠であり、当社製品・サービスを通じた脱炭素社会への貢献は「快適な生活空間の創造で、より良い世界を築く」という当社グループの使命を果たすことにもつながります。気候変動等の社会的課題に向けて積極的に取り組み、持続可能な社会への貢献と企業価値の向上に努めています。当社グループは引き続きTCFDに賛同しており、2019年にSBTi*1認定されたスコープ1*2およびスコープ2*3の目標引き上げとスコープ3*4の目標追加を実施し、2022年5月にスコープ1,2,3すべての温暖化ガス削減目標についてSBTiの認定を取得しました。また、2050年のカーボンニュートラルの達成もコミットしています。達成に向けたロードマップの実現により、CO2排出量の削減、ひいては当社の事業による貢献を支える戦略製品の継続的な開発と当社事業に関連する機会の拡大につなげます。
*1 SBTiは、CDP(旧カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)、国連グローバル・コンパクト、WRI(世界資源研究所)およびWWF(世界自然保護基金)による共同イニシアティブで、気候変動リスクの低減に向けて企業に対し、科学的知見と整合した温室効果ガス削減目標の設定を推進しています。
*2 スコープ1: 事業者からの直接排出(製造工程における燃料の使用等)
*3 スコープ2: ロケーション基準: エネルギー起源の間接排出(製造工程における購入電力等)
*4 スコープ3: 組織活動の上流と下流を含むバリューチェーン上の排出
当社が排出するGHGの99.9%以上はCO2であるため、CO2のみについて言及
スコープ1(自社排出)の削減に向けた取り組み
スコープ1のCO2排出量は290万トン(2022年は290万トン)でした。これらの直接排出は、製造プロセス内の化石燃料の燃焼、およびガラス溶融プロセスにおける炭酸塩原料の分解の組み合わせから発生します。当社はスコープ1の排出量削減に向け、以下のさまざまな技術的選択肢を検討しています。
- 代替燃料の使用:2021年9月に世界で初めて水素エネルギーを利用した建築用ガラスの製造に成功、また2022年2月にバイオ燃料を100%利用したガラス製造にも成功する等、積極的な技術開発の取り組みを行っています。2024年、英国政府の資金支援を受けて英国グリーンゲート事業所にグリーン水素製造プラントを設置することを決定しました。2025年に建設を開始し、2027年より本プラントで生産された水素を活用してLowカーボンガラスの生産を拡大予定です。これにより、同事業所では年間15,000トンのCO2削減効果を見込んでいます*5。特に水素やバイオ燃料については、より大規模な燃料を競争力のある価格で調達することが重要になります。サプライヤーとの長期契約や、事業所近辺での燃料の生産拠点確保や安定供給等の点については、購買チームが中心となりスコープ1の削減に向けた取り組みを進めています。
- ガラスの電気溶融:ガラス製造工程における化石燃料の代替として再生可能電力の使用量を増やす取り組みを計画しています。2025年にはドイツ政府の支援を受け、電気溶融によるガラス生産量をグループ内で過去最高の水準に引き上げるプロジェクトを実施する予定です。2030年にかけてその他の事業所でも順次導入を進める予定であり、グローバルレベルでのロードマップを描いています。
- ガラス製造原料の代替:ガラス溶融工程では、ガラス製造の原料である炭酸塩鉱物が炉内で分解することにより、大量のCO2が排出され、当社のスコープ1とスコープ2の約20%を占めます。この原材料由来のCO2排出量を削減するために、材料の炭酸塩をさまざまな酸化物に置き換える試みを行っています。2022年にはチリのフロート窯で「ドライム(CaOMgO)」を使用したガラス製造に成功しました。これまでの研究により、原材料由来のCO2削減効果に加え、ドライムを使用することによるエネルギー削減の効果もあることがわかってきました。粉体のハンドリングが今後の課題です。2024年以降もさらなるスタディを継続します。
- カーボンキャプチャー:ガラス溶融窯から排出されるCO2を回収するプロセスは、一般的なCO2回収プロセスとは異なります。そのため、当社のニーズに合ったプロセスを提供できる可能性が高い開発パートナーと協業を進めています。2024年3月、当社英国事業所のフロート窯において、板ガラス業界として欧州初のカーボンキャプチャーの実証実験を開始しました*6。現在、この汎用型CO₂回収溶媒ユニット(CCSCU)はフロート窯の煙突基部に接続され、煙突内の煙道を流れる排出ガスからCO₂を分離回収しています。
スコープ2(自社排出)の削減に向けた取り組み
スコープ2のCO2排出量(マーケット基準)は、50万トン(2022年は54万トン)でした。これらの間接的な排出は、購入した電気と熱の使用から発生します。
当社は、2024年末までに再生可能電力を50%にするという目標を掲げています。2024年に発表した新中期経営計画を受けて、再生可能電力比率の向上が新たなサステナビリティ目標として設定されました。この目標達成のために、当社グループはイギリスのレイサム研究所、アメリカ・オハイオ州のロスフォード工場等でオンサイト太陽光発電の導入を進めています。他にもグループ全体で多くの太陽光発電プロジェクトが進行中です。また、発電源証明の購入や再生可能電力の長期購入契約(PPA:Power Purchase Agreement)等も、グローバルで積極的に導入を進めています。2024年3月には、当社舞鶴事業所において、当社グループの国内事業所としては初めて、事業所敷地内に設置する太陽電池パネルから生成される再生可能電力のPPA契約を締結し、設置工事を開始しました。昨今の世界的なCO2削減を背景とした市場におけるグリーン電力の需要が増加し、購入電力価格高騰のリスクがある中、当社はさまざまな選択肢の中から経済合理性のある最適な調達方法を模索する努力をグローバルレベルで続けており、再生可能エネルギーの中長期的な安定調達を目指しています。
スコープ3の削減に向けた取り組み
スコープ3のCO2排出量は324万トン(2022年は328万トン)と推定されています。これらの数字は、主にスコープ3の報告分析の改善と、購入された商品やサービスの数量およびその他のスコープ3の排出カテゴリーの実際の増加により、基準年よりも増加しています。
当社は2022年、環境や社会的側面等あらゆる要因について持続可能なサプライチェーンを検討するためのサステナブル・サプライチェーン委員会を発足しました。その活動の中でスコープ3の排出量削減についても取り組んでいます。2024年3月期は、社内のさまざまなキーメンバーが参加する部門横断的なスコープ3のワークショップを開きました。当社は、2030年のスコープ3削減目標達成に向けて、全社的なロードマップを引いていますが、その実現のためには、社内のデータ収集体制の整備と、キーサプライヤーとの継続的な対話がより重要である点を認識しました。引き続き、取引のあるサプライヤーとさまざまな協働を行い、排出量データの把握やベストプラクティスの共有等の取り組みも進めています。