経営戦略と人材戦略との連動

1. 経営指針と人事戦略の4つの柱

NSGグループでは、2018年に設定された経営指針「Our Vision」に基づいて定義されたマテリアリティの中に、中長期的な企業の持続的成長と持続的社会の実現への貢献を両立するために認識すべき重要課題の一つとして「人材」を設定しています。人材は会社の事業活動を行う上での必要欠くべからざる「資本」です。当グループは、社員が事業活動を通じて「成長」し、「働く喜び」を得られる企業グループであり続けるように企業文化、人事制度、職場環境を整えることが「人的資本投資」であると考えます。そして、この投資の効果・効率性を高めて会社を成長させ続けていくことが「人的資本経営」であると考えています。

NSGグループでは、「人的資本投資」の効果・効率性を高めるためにグループCHROが設置され、人事戦略の柱として、「Our Vision」と連動した「タレントマネジメント」、「社員エンゲージメント」、「企業文化の創造」、「人事部門のケイパビリティ向上」の4つの柱が設定されています。

タレントマネジメント

NSGグループは、1918 年の設立以来、住友の理念であります「事業は人なり」を重んじてきています。そのため、人事戦略の第一の柱には、「コアバリュー」と連動した「タレントマネジメント」を置いています。働き方の基盤となる価値観である6つのコアバリューの中で最初にコミットしているのが、「人を尊重し、人を活かす」です。「タレントマネジメント」は、激変する経営環境の下で成果を出せる能力を開発し、社員それぞれがその能力を最大限に活かせる「場」を用意することを目的としています。

2018年に、グループのビジョンおよびバリューを支援する広範な人材戦略の一部として、「タレントマネジメント」を導入しました。この導入とともにキーとなるグローバルの人材の人事記録やデータを新たなタレントマネジメントシステムへ移行させ、同時にすべての管理職に対して新しい人材育成プロセスについての包括的なトレーニングを提供しました。その後もタレントマネジメントの拡充とシステムの利用促進に継続して取り組み、2019年には、社員に対するパフォーマンスレビューの議論をより深化させる目的で、NSGグループコンピタンシーモデルを導入しました。このモデルは世界中の従業員の人材育成のプロセスに組み込まれ、人材育成の活動の基軸として、「タレントマネジメント」だけでなく、「社員エンゲージメント」、「企業文化の創造」、「人事部門のケイパビリティ向上」の推進も支援しています。さらに、コンピテンシーモデルとタレントマネジメントシステムを導入したことで、NSGグループの人材評価とサクセッションプラン(後継者育成計画)の透明性が高まり、事業部門や国やリージョンを超えてマネジメントで共有できるようなりました。これによって、これまでの縦割りの人材育成から、組織の壁を越えた全社的な視座からの検討を加えた活動的な「タレントマネジメント」が継続的に行えるようになりました。

当グループのサクセッションプランは地域、事業部門の垣根を超えた候補者ノミネートを促進しながら、短期、中長期ベースで候補者の準備状況を評価し、以降の育成計画および方針等を定めて、作成、整備し、当該プランの運用状況について毎年定期的にレビューを行っています。特に経営人材のサクセッションプランについては、社外取締役が委員長を務める指名委員会で毎年、準備状況の促進、潜在力の開発、懸念点やギャップの明確化など、プランの質の向上のために取られる可能性のあるオプションや活動などについての議論が行われています。また、職務のアサイメントにおける「サクセッションプラン利用率」や候補者の多様性をモニターするなど、一層のプランの質の向上に努めています。(2022年3月期におけるシニアマネジメントへの異動の約80%がサクセッションプランに基づいたものになっています。)

優れたリーダーとは、従業員の意欲を喚起しモチベーションを上げ人間力、それらを通じて短期的には成果を達成し結果へのこだわり、長期的な成功をもたらすビジョンことのできる人である。

社員エンゲージメント

第二の柱は、「使命」と連動した「社員エンゲージメント」です。「快適な生活空間の創造で、よりよい社会を作る」という当グループの存在意義のもとで、多様な社員一人一人(Diversity)の働く「Purpose」を受け入れ(Inclusion)、職場内チームワークやコミュニケーションを促進して快適に働くことができる環境を創造していくことが「社員エンゲージメント」の目的です。

具体的には、働き方改革の推進、すべての社員の人権の尊重 、インクルージョン・ダイバーシティを推進、将来のために必要なスキルの獲得のための教育訓練(リスキリング)の実施、労働災害や業務上の疾病の防止により安全な職場環境を提供するなど、社員の「ウェルビーイング」を向上させるような施策を展開しています。

社員の働き方については、NSGグループはコロナ禍により変容した社会・政府の要請や指針を踏まえ、「Withコロナ」における多様な働き方を実現するための環境整備を進めました。感染防止対策を保ちつつ、組織・個々人の在り方を見直し、生産性・パフォーマンスを最大化する働き方への移行を目指しました。中でも、場所と時間に捉われない働き方を支援するために、在宅勤務制度を拡充し、コアタイムのないスーパーフレックス制度を導入しました。また、会議・ミーティングなど仕事のオンライン化を進めるために、在宅勤務に対応したIT環境を整備するだけでなく、上司・部下のマネジメント向上(定期チェックインの導入)、リモートにおけるチームマネジメント、コミュニケーションに関するマネージャー支援、健康相談等のリモート窓口の設置などマネージャーの業務マネジメント機能の向上を支援しました。

また、安全、人権の尊重、行動への当事者意識、オープンで全員参加を促すコミュニケーションについては、「コアバリュー」で定められた"誠実であること"を具現化するものとして特に重視され、「NSGグループ倫理規範」において、すべての従業員に求められる行動としても規定しています。2020年は世界的な新型コロナ感染症の拡大により、当社グループの従業員エンゲージメントに対するアプローチも大きく変化しました。多くのメンバーが勤務時間の短縮、一時帰休またはリモートワークに移行し、マネジメントチームが事業所や職場を訪問して社員の声を直接聞くことができなくなりました。しかしながら、この困難な時期でも、当社グループのマネジメントは、チームメンバーの安全をすべての活動の中心に据え、テクノロジーを駆使して、会話やミーティングを行い、従業員の「ウェルビーイング」の状態を継続的に確認しました。

NSGグループの倫理規範は、安全かつプロ意識を強く持ち、法に則って倫理的に、そして企業の社会的責任およびサステナビリティを示して事業を遂行することを最優先の基本事項として示すとともに、国際的に宣言された人権遵守を明確に示しています。人権に沿った雇用方針・雇用慣行をグループ全体で適用することにより、従業員の公正な取り扱いを保証しています。NSGグループの雇用機会均等ならびにダイバーシティポリシーは、人種、肌の色、信条、宗教、信仰、年齢、性別、性的指向、国籍、障害の有無、労働組合への加入、政治的所属、またはその他の法律によって保護されているあらゆる立場に基づく差別の禁止を目的としています。

「ウェルビーイング」の向上の取り組みで、近年当グループで特に注力しているのがグローバルでは「インクルージョン&ダイバーシティ」の推進です。また、日本独自の取り組みとしては「健康経営」があります。健康については世界共通の課題ではありますが、健康に関する個人情報の取り扱いはプライバシーを特に意識して行うため、国や地域によって文化的な違いがあるだけでなく、法による規制も異なります。そのため、これに関する人事施策の推進は日本に限定しています。「インクルージョン&ダイバーシティ」と「健康経営」の推進活動については、項を改めて説明します。

「企業文化の創造」

第三の柱は、NSGのなりたい姿を示した「目指す姿」と連動した「企業文化の創造」です。社員の一人一人が、「先進の発想で変化を起こし、すべての分野で最も信頼されるパートナーとなる」という姿を目指して行動できるようになるために、部下に対するコーチングやフィードバック能力が優れたマネージャーを育成することで、創造性やイノベーション、そして顧客志向といった個人の価値観や企業の文化を醸成させることを目的としています。

NSGグループでは、「企業文化」を社員一人一人の考え方や行動の傾向の集大成と定義し、上司と部下、同僚間における「対話」(ダイアローグ)を通して考え方や行動の変容を促すことで、強い企業文化を醸成することができると考えています。特に中期ビジョンと中期経営計画RP24の策定後は、会社の進むべき方向についての対話活動を重視し、コロナの渦中においてもオンラインを活用することで、グローバルリーダー達との対話を目的としたNSGサミットや、世界各地域の幹部社員との対話を目的としたタウンホールミーティングを継続して開催しています。

「人事部門のケイパビリティ向上」

最後の柱は、「人事部門のケイパビリティ向上」です。全社レベルで「コアバリュー」、「使命」、「目指す姿」の経営指針に沿って、企業価値創造の最大化を目的とした人事施策を行うのは人事部門です。人事部門のケイパビリティを向上させることで、この目的の達成をより確実にしていくことができると考えています。

人事部門のケイパビリティを高める方策としては、毎月二回開催される本社部門と各地域の人事の責任者全員を集めたオンライン会議において、互いのベスト・プラクティスを相互学習し、新たな有効な施策を横展開する機会を設けています。さらに、現在コロナ禍で中断していますが、二年に1回世界中から将来の人事部門の幹部となりうる人材を招集して、世界的なネットワークを作るとともにNSGグループの人材マネジメントについて学ぶ研修を実施しています。

また、先に述べた「タレントマネジメント」を支援するために、タレントマネジメントシステムの「SABA」を全世界に導入し、マネージャー以上のデータをクラウド上に集積して人材開発を支援する効果・効率性を高めています。

2. 中期ビジョン、中期経営計画を実現する人事戦略

NSGグループは、2021年5月に中期ビジョンと中期経営計画「リバイバル計画24(RP24)」を発表しました。RP24においては、3つの改革の中で「企業風土改革」、中でも「企業文化改革」として、

  • 改革リーダーの育成・登用(インクルージョン&ダイバーシティの加速)
  • 改革の成果を評価する報酬制度
  • 経営と現場・地域・部門間の双方向コミュニケーションの活性化
を掲げています。この中期ビジョンと中期経営計画RP24の実現に向けた人事戦略を策定するにあたり、NSGグループの全社員に対して人材、組織、企業文化の現状を把握する目的で意識調査「Your Voice」を実施しました。その結果と、NSGグループと同規模のグローバル製造業における同様な調査結果(ベンチマーク)と比較した「As is – To be」のギャップ分析(分析の詳細は後述)を行いました。分析では、会社の状況に対して肯定的意識を持つ社員の比率を指標として、ベンチマークと比較しました。その中からNSGグループの指標が低いところについては以下に述べるような重点的な対策をとることにしました。これらの施策に対する人的資本投資の効果・効率性については、2023年に実施する第二回目「Your Voice」においてモニタリングする予定です。

「タレントマネジメント」

2024年に向けた人的投資の目標は、タレントマネジメントを職場における人材育成に定着させ、マネジメントの各階層において、中期経営計画RP24を実現する能力を持った変革リーダーの育成を促進することに置きました。RP24の実現の鍵となる「顧客重視」、「迅速な意思決定とアクション」、そして「困難な課題の克服」に向けたリーダーの行動変容に関わりの深いNSGグループコンピタンシーモデルの各項目を階層別にリーダーの能力開発目標におき、人材評価、選抜、そして研修といった人的投資を行います。併せて改革に必要なデジタル化、マーケティング、新規事業開発といった分野のリスキリング教育も従業員に対して実施します。

研修においては、すべての階層で「Withコロナ」の環境下においても継続的な学びの機会を提供することとし、人材育成に関するグループの研修プログラムを、従来の完全な対面式の教育形式から、オンラインのバーチャル教室、アクションラーニング、コーチングなどの育成活動を適切に組み合わせた形式へと移行させています。

階層別の育成においては、特にグローバル経営人材の次の階層であるリージョン人材の育成活発化に注力します。各リージョンにおいて定期的な人材会議を開くことで、将来のグローバルリーダーとなる人材の発掘と育成を強化します。特に、グループ本社の置かれている日本では現在、グローバルレベルの経営人材候補としてサクセッションプランに登録されている人材が減少傾向にあるため、2022年より20代から30代の若手の中から向こう10-15年以内に国を超えてリージョンまたはグローバルレベルの経営人材へ促成育成を目的としたAP(Acceleration Pool)会議を開催し、発掘した人材の個別の育成計画(Individual Development Plan : IDP)を作成して、対象者に部門横断的な異動、特別研修、プロジェクトチームへの参加などの施策を行います。

RP24実現のための人的投資

「社員エンゲージメント」

2018年にNSGグループは、社員の業績評価をそれまで5段階の相対評価から4段階の絶対評価制度に変更しました。「インパクト アンド バリュー モデル」と名づけられているこの制度について、制度導入から5年目を迎える2023年に向けて導入当時の経営環境の変化と照らし合わせながら、成果を公正に評価できるように変更もしくは改善を加え社員の改革に向けたエンゲージメントを高めることを検討していきます。

また、当グループにとって必要欠くべからざる技能や経験をもった人材で、マネジメントトラックには入っていないために昇進や昇給が遅くなってしまっている人材に対して、会社への貢献対して正当に報いてリテンションを高めることができるような専門職のキャリアトラックとそれに応じた報酬体系を導入検討します。

「企業文化創造」

2022年から開始した「NSGリスニング・ストラテジー(傾聴戦略)」の一環として従業員意識調査「Your Voice」を実施しました。調査の結果は、各部門やファンクションのグローバル各リーダーに提供され、「Let's Focus」セッションとして、28か国すべてにおいて、それぞれのチームメンバーと結果を共有し、話し合いを行いました。

各々のリーダーは自分のチーム、国、地域、NSGグループ全体のそれぞれの調査結果を見ることができます。結果の共有を受けたチームメンバーは、自分たちのチームにおいて対応アクションを議論する「Let's Talk」セッションを開催しました。部門や職場ごとに開催される「Let's Talk」セッションにおける対話を通して、社員の考え方や行動の変容を促しています。また、チームメンバーから出た変革に向けたアイデアや提案は職場環境の改善に結びついています。このような活動を通して、社員の改革に向けた自己肯定感や自己効力感を強め職場環境を改善することにつながると考えています。

人事部門はマネージャーに対して上記のセッションを効果的に進行するためのトレーニング資料を提供しました。上司は社員と日々仕事を通して対話し、建設的なフィードバックを行えるようにトレーニングを実施し、フィードバックの習慣を企業文化に定着させることで社員一人一人の行動変容を促してRP24の実現を図りました。

2022年10月には、NSGグループのシニアマネジメントのメンバーが一同に会して、自らの行動変容について具体的な内容を決めて、全員がコミットしました。シニアマネジメントが率先垂範して行動変容しているかどうかについては、2023年に実施予定の第二回目「Your Voice」において社員の声を聞く予定です。

最後に、NSGグループの企業文化改革にはI&Dの活動が不可欠です。そのために後述するような各地の活動をNSGグループでは全面的にバックアップしていきます。

「人事部門のケイパビリティの向上」

「人的資本経営」を進展させるような人事戦略を実現していくためには、人的資本にかかわる「非財務情報」を収集し、それに基づいた経営のタイムリーな意思決定が不可欠です。過去に企業買収と統合によってビジネスを拡大してきた歴史を持つNSGグループでは、人的資本にかかわるデータは、マネージャー以上のタレントマネジメントシステムのSABAを除いて、基本的には各事業所や国において管理されています。このように個別管理されているグローバルのデータを収集する際には、データ内容と経営目的の合一性、データ定義の一貫性、データを国を超えて提供する合法性、さらにはデータ保管の安全性といったデータガバナンスが高いレベルで確保されている必要があります。

そこで、2024年に向けては、将来の統合的人的資本管理システムの導入の序の口として、「HRデータガバナンス」を確立し、それをグローバルに展開することを目標にしています。

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